雌豚と淫売のあいだ

シリーズはてな名勝負



おさらい
1)「…とは興味深い」
2)「おまえもメスブタ」
3)「この淫売」
4) 炎上



わたしのメール・ボックスには、ひとつぶ呑むと
勃ちっぱなしになるという謎の錠剤(OEM)の
ご紹介や、子が孫をつぎつぎ生んでく錬金術講座
などにまじって、わりきった交際とやらを求める
人妻や女子学生の皆さんからのお誘いが、1日に
ざっと100件ほど襲来する。
ことの真偽はともかくとして、不思議なのはだれ
ひとりとして
「真剣に、骨まで愛します。よろしくネ」
と書いてよこさないとこだ。飛びこみでそういう
のは、どうやらまずいのである。



「割りきる」とは感情や記憶をもちこさないこと
であろう。
しかしそれならば、われわれはコトがすんだあと
「どうだった…?俺?」
とか、決して訊いてはならないし尋く気にもなら
ないはずなのだ。
たしかにだいたいの場合
「こんなの。はじめて。」
なるお答えを頂戴できる。
するとここで満たされる性的欲望は、実際の行為
よりも嘘で
「よかったわ」
と言ってもらえる点に依存してる。
なわけねーよ。とお互い思ってても、この言葉の
やりとりに、われわれは安心してしまうのだ。



「最古の職業」の機能とは、以上である。
たとえば
「ちょー気持ちいい!」
みたいなコメントが通用する、スポーツ選手から
1個あたり3銭の封筒貼りに至るまで、それこそ
職業は、星ほどあろう。
それでは職業と快楽との関係はどうだろうか。
己を歯車と成すことで、それを達成してるひとも
いるかもしれない。
ごく単純に(われわれは見物しさえする)得られ
そうな勝負師も、代償は大きそうだ。
短パンOK、ノルマなし、カード支給。みたいな
条件がじつは1番、精神的にキツかったりする。
わりきれてる人なんかいないから「割りきり」が
売り物になるのである。



ならば、メスブタはどうだろう。
「豚のように交わる」
とか
「猿のようにやりっぱなし」
といった場合、これは何をさしてるのか。
動物とは、絶対にノイローゼにならない人間だ。
猿は猿を殺しはするが、収容所なるものを造って
タダ働きのありがたみを教え込んだりはしない。
われわれはどう願ったって、彼らには戻れないと
いえよう。



よって「メスブタ」は、おやつには入らない。
これはむしろ、褒めことばとすら言える。
「あぁら、奥さまこそ、お綺麗じゃありません?」
にちかい。
これを罵倒とする解釈は貧弱だ。
対して「淫売」は、1歩踏みこんだ印象がある。
職業と肉体のあいだを漸進てきに横すべる快楽の
秘密を説きあかすのに、充分でないから。
「そんなこたございませんわ」
と、いったん受けるべきだった。



もうおわかりになっていただけると思う。
単なる「罵倒」などというものは存在しない。
(たいがいは)高度な心理戦なのだ。
いいだのわるいだのひとからげに論じられるもの
ではない。
また、はたして彼女たちは「共依存」してるのか?
それも、はなはだ稚拙な感想である。
なにかを言って、わかったつもりになるのが最も
よくない。
解釈の可能性を常に開いとくために、わからない
でいることも必要なのである。