日本人はなぜ逃げないか

id:hokusyu さん経由。



それは簡単な話で、日本はご存知
赤信号みんなで渡れば怖くない
の国だからである。皆で渡らないと何が怖いかに
ついて、大半の者が
「クルマ」
と答えるだろうが、それは間違ってる。この国の
市民社会は、江戸時代から互いを監視することで
なりたってる。近年とかく話題になりがちだった
パノプティコンも街頭防犯カメラも田代神も全て
その土壌に華ひらいたにすぎない。北野武は下町
出身だけあって、そのような習俗の闇を直観的に
理解してたのだ。
つまり、ぬけがけして逃げださないように互いを
嫉妬でがんじがらめにして、判断を下せないよう
力を奪い合ってるのである。
以下抜粋



「それでも一人で逃げたやつが出るか?というと
逃げたのは一人もいないんだ。しかしドイツ人と
一緒になってみると、やつらはみんな逃げてる。
シベリアにつれてかれるとわかった時に、みんな
撃たれても、どんどん突っ走って逃げてるわけ。
歩どまりを見てる。百人逃げたら、何人助かると
勘定して飛びだしてる。日本人にはそれがない。
戦後になって、敗戦で少しは、利口になったかと
思ってたら、あなたの(五木寛之)読んでみると
いっこうに馬鹿ぞろいだね。
新聞はあなたのことを
『あわて者、飛びだしてケガ』
て書いたんだって?
これじやとてもじやないと思うしね。
あれをあなたは、面白おかしく自嘲的に書いてた
けれど、こんなこと俺に、思い出させて貰いたく
なかった。そう感じながら、読んでたんだよ。
屠殺所に引かれるときに、死出の旅路をノコノコ
歩いてくくらい、恥辱はないと思うな」

内村剛介
初出「週刊読書人・昭和45年1月15日号」