背中

台風が近づいてくるというので、地下鉄に乗って
どこか、ふだんはあんまり行かないようなとこへ
遊びに出かけてみようと思った。
そういえば前回は、上野でだれもいない博物館の
窓から、揺れる庭の緑を、眺めてたのだった。
「25年ぶりの来日」
新聞にそう書いてあったので、大手町で降りた。
大名小路という名の、地下道だった。
「オープン5周年」
記念する旗が、あちこちに吊されてて、つくづく
縁がなかったのだと感じた。
万がいち道を踏み外してたとしたら、このへんで
ID下げて、ランチの列に並んでたのかもしれぬ。
そう思うと、さすがにゾッとしないものがあった。
とはいうものの、今そんな状況へ投げ込まれたら
20日ともつまい。
よって、もはや完全にひとごとなので、なんだか
みんな、すごく楽しそうである。
パンツスーツのOLさんも凛としてるし、構造を
改革したおかげで、景気回復もまた実感できる。
プロムナードを、そぞろ歩いてるだけで。
バルタン星人のように、分身の術をつかえたなら
ぜひとも1体は、ここらで華やかにしててもらい
たいものである。
しかしそう思ってみると、行き交う人々はじつは
全員が分身で、本体は新座市などで放浪ってるの
かも知れなかった。
神像はバブル崩壊後、92年に切りだされたもの
なのだが、島の長老たちが霊力を注入してるので
ホンモノだという話だった。
滅亡してしまった文化から、なにがしかの教訓を
ひきださんと、数トンの石は、かれこれ15年に
わたって世界中の繁華街やイベント会場を旅して
まわってるのだ。
フェルメールスフィンクスも、250GTOも
実物は写真やビデオで想像してたのよりずいぶん
小さかったのだけど、同じだった。
見物にきた人たちは、みな驚嘆したように聖なる
顔を仰ぎ、携帯を開いて液晶ごしに全身を確認し
そして、背後の壁に記されてる口上へ進んでから
ふりかえって、たちつくしてた。
「謎の古代遺跡ムック」
などで知ってるのは、仏像のように「顔が命」の
正面なので、1本とられた感じだった。
せっかくの機会なのだから、渋谷駅まえのやつも
スクランブル交差点へ急ぐ群集から、背を向ける
ように180ど回転させリニューアルし、無言で
メッセージを語ってる設定にしたらどうかと思う。