散歩の途中
「緊急販売・限定18戸」
なる捨て看板をみかけたので、矢印に従ってった。
山の手線路わきに建つ、六本木まで10分の物件。
1年前に完成してて、「即入居可能」となってる。
このあたりは投資目的で、ファンドが丸ごと購入
するのも、珍しくなかったエリアだ。
ここも噂では、1/3が証券化されてるという。



総戸数は700強だから、けっこうな大所帯。
今回覘けたのは、どれも10畳程度のワンルーム
管理費も1万円くらい。
そしてなによりも、執事喫茶のように、入り口で
制服すがたのドアマンが、うやうやしく24時間
迎えてくれるのである。
超高級ワンルーム・マンションと考えれば決して
高くない。というか毎朝
「いってらっしゃいませ」
と言ってもらえる部類では、お手ごろなはずだ。



ヨーゼフ・Kのめざした丘の上の城は、モダンな
官僚組織の悪夢だった。
とびらを開けたらまた扉。
女が洗濯してる次の部屋では、裁判官がポルノを
読みふけってるといったぐあい。
今日ではそれは、あたかもエビちゃんシアターの
2次元世界内へ入ってって、キメのポージングを
カメラ目線でとってる彼女らの横顔を、わきから
こっそり、伺ってるがごとき体験だった。
スペックが実物をはるかに凌駕してるのだ。かと
いって、みかけだおしということではない。
われわれがニューデリーの不動産証券ファンドに
投資する際、実際に現地へ赴き、すべての物件を
すみごこちまで含め、精査するなど不可能なのだ。



現代の城は、無限の迷宮というより、壮麗巨大な
門をくぐった玄関につづくのが、無限につらなる
メイド部屋・部屋といった感じだった。
写真うつりがいいのは当然である。
われわれがイメージに対して奉仕してるのだから。