幽霊

朝刊さき読みでも10秒ほど、取りあげられた。



東京新聞・青柳知敏
「フィリピン・ベンゲット州トウバの公立高校で
今月5日、2年生の生徒14人が、授業中に突然
叫び声をあげ、真っ青な顔でぶるぶる震えながら
床に突っ伏した。
トウバ町役場によると14人は同じ時刻に正気を
そろって失い、意識をとりもどしてから
『ラッパを持った大男の集団をみた』
と説明。ある生徒は
『大男が「うるさい、邪魔するな」と怒っている』
と、おびえて説明した。
同校の地下には太平洋戦争中、旧日本軍が掘った
トンネルがあるとされ、副町長は
『新校舎の建築工事に怒った兵士の霊が、生徒に
とりついたにちがいない』
とコメントしている」



マニラ新聞の続報では現場にかけつけた祈祷師が
事態を無事、収拾したらしい。
ベンゲット州は、いわゆる「心霊治療」で有名な
ところ。



風むきが換わる瞬間。
まちがいなく今年上半期の、3大バカ発言の1つ
「これでは父がうかばれません!」
−前長崎市長の娘・弔い選挙の結果をうけて−
切羽つまった時に何気なく、くちをついてしまう
ひとことは、正確ではないにせよ、的確だ。
きちんと埋葬されなかったものがさまようのだと
ヘーゲルも言ってる。
「うかばれません!」
とは
「いざ化けて出よ!」
という、死者を召喚する、呪いのおたけびなのだ。
おまけに全国民が、聞いてしまってるのである。



これまで歴代の、どの首相も、アメリカ大統領を
長崎−広島の旅に、お誘いしてない。
さきの陛下も、原爆投下について
「やむをえなかった」
というご意見を、述べられてる。
その際も特に、物議をかもしてない。
世論が防衛大臣の罷免を強く、求めるまでに変節
してしまったのは、もちろんあの叫びごえが耳の
奥に響いたまま、アラビア半島中のクワイエット
コンフォートを集めても、消しさるには足りない
から、である。
つまりとうとう、血塗られた亡霊が寝台のわきへ
夜ごと立ち
「へいわになれ」
恫喝してまわる世の中が、やってきたのだ。
今までは理想にすぎなかった平和が、これからは
義務として、のしかかってくるのである。
よりによって真夜中に、そんなことを強要されて
何人がこころ安らかなまま、いれるだろうか。
やがてわれわれは諸外国から
「平和中毒」
と呼ばれるに至り、かつて平和ボケだった日々を
懐かしむにちがいあるまい。
さっそく共栄圏を、外遊してきたようだ。