わたしはキャバクラが嫌いだ

これって病気じゃね?と、思ってはいるのですよ。
でもわたしは、働くのが大きらい。
のんびり島の浜辺かなんかで、ウクレレでも弾いてさ
ビキニ姿の娘さんファッション・チェックしてれたら
楽勝なんすけどねぇ。
あとお布団からも、なかなか出たくないです。
人間、歳を重ねると丸くなるなんてのは嘘でますます
偏屈化しますよね。
それこそ万難を排するくらいのいきおいで、そういう
お店へは1mも近づくまいと固くこころに決めて日々
送ってるのですが、それでも年に数回は
「逃げなきゃ…」
と思いながら、シャンパングラスの泡をみつめてます。
真夜中を過ぎますと、わたしのまわりには私より年上
ばかりが目につくようでして。
こないだわが身を発見したのは、MIDTOWN裏手
雑居ビル2F、深紅のソファ(びろうど)の中でした。
ここは全世界から仕事熱心なお姉さんたちが集まって
くるようなとこで、ステージと称する台上には金属の
棒が何ぼんも立ってて、ごらんになってるのは神さま
ばかりといった格好で人が、くるくる回ってます。
みるからに外資系なヤンエグたちは
「リアリィ?はっはっは(笑)」
軽はずみなドーナッツ・トークを楽しんでるのですが
ブリオーニかよ、けっ。みたいなボンクラでやる気の
ないわたしに水割りを作ってくれるような、とれたて
ぴちぴち先週成田に着いたばかりニホンノことなんか
なんもワカリませーんていうお姉さんたちはですね…
えーっと。どっからきたの?
ベラルーシ?サルバドール?
うわーロシア語とポルトガル語か(泣)この時間から。
おまけにもう、けっこう飲んでるってのに。
えいごは?ちょっとしかわからん?あーあ、やっぱし。
…だから指名がつかないんだよ。
話をもどしますね。
ひらたくいってしまいますと、スイート・スポットが
年々せまくなってるわたしは、自分はおろか、他人が
働いてるのを見るのもガマンできないのです。
だからキャバクラだいっきらい。
しかしそんなこと面とむかって言えませんよね。
「パっきんパキにキメてミーティングにくるやついん
じゃん?ああいうのみると『苦労してんだなぁ』って
思うよね。『なにもそこまでなさらなくても、おたく
さまの…』てなぐさめてやったら、なんかかんちがい
してそいつ、帰っちまいやがんの」
軽くふってみたのですが、なんにもでてきません。
それどころか、ここでわたしがこうした内容の会話を
とりおこなってるという事実、そのものが巨大なワナ
ゲームの1部、深夜の労働再生工場なのではないか?
と暗くなってしまったのです。
すると右に座ってたベラルーシ出身ペテルブルグ育ち
21歳ついこないだ2回目の離婚したばかり実家では
ヤギを飼ってるプラチナ・ブロンドのほうがですね
「あたしは日本にいれるだけで幸福よ(そりゃそう)
でも、あなた…いったいロシアのこと、なに知ってる
っていうの?」
やいばをちらつかせてきました。
「ヨーロッパっていうより、どことなく東洋に通じる
メンタリティがあるよね」
とかいってごまかそうとしたのですが
「ふん。」
やっぱりあいてにしてくれません。これはピンチ。
煙幕をはるしかない。
「いやぁロシアの本も読むよ。翻訳だけどソローキン
とかペレ−ビンとかターボ・リアリズムってのはね…」
いい終える間もなく、彼女の声がステージで踊ってる
お仲間らしきあてに
「XXXX!このボンクラ、てっきり頭の悪い貧乏人
かと思ってたら、ソローキンだってよ!!(大意)」
あのねぇ。ソローキンさんはこないだまでTV番組で
われわれに、ロシア語おしえてたんだよ。
そう言おうとしましたが、あの日のブラウン管ごしの
ソローキンさんのお姿、カメラに目線を合わせるでも
なく下むいてぽつぽつとアンナ・カレリーナの不幸な
生涯について、語るさまが浮かんできてしまいました
ので、やめることにしました。
ここんとこ同じような気持ちになってます。
元気はげんきなんですけどね。