公務員たち

日がかわるまで、一昨夜は小雨だった。
10時ころ、下の道を何ども行き来する車の
音がする。ベランダのあかりを灯けて窺うと
階段を少し先あたりで停まった。
「だいじょうぶですか?」
きくと
「ふじこです」と、返ってきた。
ウチへもどる道が、わからなくなっちゃって。
そう続けるので、おりてった。
あさってコロラドへ帰るから旦那と娘がどう
だの学校が…その間もかまわずまくし立てる。
「来てたんだぁ」
そしてしらじらしく驚いてみせた。
「おまえボケたんじゃないの?頭へいき?」
「いやぁだあ。こないだは5年前で、ほら
いつもの運転手さんが…」
「そう言うのを若年せい、ってんだよ」
教えてやっても、ここん家は万が一明日わが
国にプロレタリア革命がおきたら、真っ先に
吊るされるような白痴ぞろいだから、まるで
ムダ。
娘は車を降りて、暗がりから挨拶してきたが
旦那は窓ひとつ開けようとしない。
送っていく。

さっき買い物のかえりに、宇田川さんとこの
おばさんにでくわして、テラスでコーヒーを
よばれる。
「ログハウスのまえ通ったの。フトンがやま
ほど干したったわよ。ひさしぶりでおいでに
なったのに。頻繁にいらしてたのにねぇ」
あーいやあれは、あすこんちの公務みたいな
もんで。陛下の田植え。総理のゴミひろい。
おじさんご存めいん時分は、ハイヤーできて
日帰りだったりもしたくらいで。
説明しようと瞬間おもうが、こちらのお宅は
こちらのお宅で、背中の入れ墨はスジぼりの
がむしろ、男らしいのでは?みたいな話題で
もりあがるようなウチだったと気がついた。
「一家心中んでもきたかとおもいましたよ」
とだけ言う。しかたないので書いておく。