ハイパァリアル

やすみあけ。
玄関先へたまった紙束をかき集め、広げてみるが
ぜんぜん、読みこむ気ぶんになってかない。
いきおいで朝刊ヘッドラインまでもが、あたかも
古しんぶんのように、いろ褪せてしまう。
載ってるのが昨日のニュースなのだから、あたり前
なのだけど、どうしようもなく昔話を聞かされてる
みたい。



せめて折りこみだけでも眺めんと、宅配ピザ屋の
新製品や、鎌倉駅徒歩5分もと料亭1263平米
12億なるチラシをめくってく。読売の販売店
巨人−阪神戦のチケットを先着で、確保できると
日経は「お支払いはクレジットカードへ」の裏に
ステラ・マッカートニーがリブ・タイラーと語る
セレブな本音トークにご興味あるなら、ヴォーグ
年間購読はいかがですか?毎号かくじつにお届け
しますよと、1色/1色な激安印刷で、誘ってる。
週刊新潮で「四十路の女」「熟女コレクション」
広告にむきあってるくらい、きまずい。



黒ぬり金箔オシな、運の悪いゴージャスなDMの
封をきる。
湾岸地区にらいねん3がつオープン予定リゾート
倶楽部、天空のしろラピュタみたいな完成予想図
CGが、かがやいてる。
地上100mのプール、超100㎡のスイートが
35%はいいとして
「デザインコンセプト、それはどこまでも荘厳で
重厚なニューヨーク・アールデコがドラマを演出」
は、いかがかと思う。
いまどきニューヨークはきびしくないか。それに
年間24泊保証のタイムシェアときた。そんなに
まぬけが集まるだろうか。
「海外からのお客さまを招いてひとときを…」
とか言ってるが、こんなとこで葉巻を燻らしてる
ようだったら、下北の再開発を反対してたほうが
まだマシなきもする。
しかしそれは僻目なのだろう。
せっかく景気がうわむいて、にほんじんも本物の
かちをみわけれるようになったのだから、ここは
ぜひとも成功してもらいたい。
またふたたび10年をうしなってしまわないよう
せつに祈りたい。



とはいうものの、すでに失速してる感じもする。
「うしなう」みたいな、お仕着せの量的概念を
もって時間をとらえるのが、それほど快適なら
少し、アルコールをひかえるがよかろ。
こないだ、夜のあいだは最新のミニマル音楽が
ながれてるバーに免許書をわすれてきたらしく
わざわざ電話をいただいて、翌々日の昼下がり
準備中に、取りにあがったことがあった。
パシフィック・ミッドセンチュリーに囲まれた
JBLから、けっこうな大音量で響いてたのは
従業員の皆さんのオールタイムフェイバリット
ヤザワのバラード。
にんげん人生のふしめ節目でちゃんとのんびり
露天風呂へ浸かっておかないと、ついつい
「時間よとまれ」
という錯覚に、堕ちいってしまうのである。




ソットサスが
「文化ってのは、ほら、ダンボール紙を食べてる
ようなもんだよ。まんまじゃムリだから、芥子を
つけたりトマト添えたりすんだけど、そりゃまぁ
食べないにしくはないね」
インタビューでこたえてたのは、30年ちかくも
まえ。
われわれは結局、ポストモダンからもなにひとつ
有効なものを学ばずにいて、わるいのはウナギや
磁石のせいに、してしまってるのだった。