サークル・クラッシャー

「配慮がたりない」
とか言って、右翼団体がFさんの会社に難クセ
つけてきたときには、だれもこうなるだなんて
想像してなかった。
「払ったのか?」
「あれで金だすやつぁいないだろよ」
みたいな、下世話なうわさが数日かけめぐって
すぐフェードアウトしてった。べつにそんなの
よくあるんだし。FさんとM美が出逢ったのは
その年の暮秋、栃木県Rゴルフ場のレストラン。
A社がPR業務の一環で、期間限定で開いてた
Lカフェで働いてたのだという。



たちまち意気投合した2人は
「知ってる?チーズバーが流行ってるのよ?」
年末のニューヨークへと旅してった。
なんでも「ワイン通」とのふれこみだったのだ。
ところがくだんの、ハドソン川の夜景を楽しみ
つつ、ラ・タッシュをくるくる回わせるという
情報は、巨大な猿がジェシカ・ラングを抱えて
登ったビルが、この街に屹立してたころTVで
やってたネタの、うけうりだったらしい。
どこ探しても、そんな店は見つからなかった。



帰国してからは、夜の西麻布に現れるFさんの
格好が、知りあいのカジュアル系ドメスティク
ブランドからゼニアへ換わったくらい、他には
経理を長年、担当してたS子さんが辞めてった。
22歳も年下の、ゴージャスな彼女が代役だ。
こうなると一躍、ときの人。注目のまと。
Fさんとは数回くらいしか、話したことのない
このわたしも、いろんな巷説を耳にする。
Kさんの奥さんが
「カフェで、どんなお仕事なさってたの?」
訊ねたら
「ひ・み・つ」
唇に、ひとさし指あてた。とか、もうちょっと
えげつないやつ(チェックインしたら請求書が
でてくる)とか。



ここまでが去年の春。
その後Fさんの会社は東京で1番トレンディな
ビル裏手に引っ越した。
「社会問題にご理解を」
みたいな話が、違う団体から持ちこまれたのも
ほぼ同じタイミング。
先週、年間総売上げの半分近くを占める、大口
クライアントが、A社にのりかえたときいた。