「あれぇ…この生コン
「コンマ2っつう話なのによ」
「3割がた、足んねぇで」
口ぐちに言いあってる。
雨のあい間をぬって進めてた玄関まわりの改装も
ようやく、終りがみえてきた。
のはいいのだが、連休が近づくにつれ、2人とも
そわそわ落ちつかない。結局も1ど、山を降りて
高原のパンやさん向かいまで、コンクリを貰いに
いったらしい。
1時間くらいして言うに、小石と砂が混ざってる
べきなのに、さっきのはモルタルだったのだと。
なるほど素人めにもはっきり、わかるくらい。
こんなことに気づかないようでは、仕かたない。
よくよくきいてみると、休みが待ち遠しいという
より、山菜とりにいきたくて頭がいっぱいなのだ。
親方によると、このタイミングで山んなかにいる
のも不運なのである。
もうひとり来てくれてる職人さんは、もともとは
このへんの農家のひとで、自宅は築100年だと。
80年代には東京でSEだった。その後Uターン
請負でプログラミングをしてたが、10年前から
村のこの職場へ、つとめはじめた。
息子が今年、東京の大学。
「おや…あんなところに」
と話をとぎり、林をずんずんわけいってく。
指さす先をついてくと、高さ10センチくらいの
春蘭である。
通常は株3000円。紫とかの変異なら数万のも。
1株から大量に花咲けば、これを「高嶺の華」と
呼んできた。
いくどか根まわりを、軍手の両手でそっと撫でた。
やがてきっぱりと
「寒さには強いけど、下草には負けちゃうんで」
そっちのベランダわきにでも植え替えたらどうか
と、しきりに勧める。
こちらはこちらで
「連休にはウチのブロック塀を直す」
のだと。
塀のすぐそばに、父親が桐を植えた。桐は成長が
速く、年1センチにもなる。ブロックを積むとき
基礎石を沢山、敷いたのだが、根ざして入ってき
膨らんだのだろう。
その生いそだちゆえ、この地では娘が生まれたら
庭へ植えつけ、箪笥とし、持たせたりする。
「プレッシャーっすね。棺おけにでもすんの?」
振ってみると
「いやぁ…こりゃたいへんなコト言っちゃったな」
それでも笑ってる。
どっかへ姿を消してた親方が、もどってきた。
「ほんとはも少し待つともっと大っきくなんだが
最近じゃ皆、あらそうようにしてとっちまうんで
せつねぇんだ」
こぶしを平いてみせる。
鉄筋と、モルタルひとふくろだけ残してくれたら
あとはこっちでやるから。と告げ、今日かぎりで
上がってもらった。
案の定、しばらくして雷に祟られた。